悲劇四部作「Xの悲劇」ほか/エラリー・クイーン(バーナビー・ロス)
さて今回は、クリスティに続きまして超有名作家、エラリー・クイーンのご紹介です。
クイーンと言えば、いとこ二人による共著であることはあまりにもよく知られています。
作家名と同じ名の青年探偵(推理作家にして警視の息子)エラリー・クイーンが活躍する「国名シリーズ」などが代表作ですが、そちらのご案内は次回に譲るとして、今回は聾者にしてシェイクスピア名俳優であるドルリー・レーン探偵のシリーズを取り上げます。
レーンが活躍するのは四作のみ。どれも独立した事件ですが、全体として一つのまとまりも見せています。
「Xの悲劇」「(日本でも有名な)Yの悲劇」「Zの悲劇」そして「レーン最後の事件」がその四作で、当初は“バーナビー・ロス”名義で発表されました。
以下、一作ずつについて、簡単に。
「Xの悲劇」(The Tragedy of X)
ドルリー・レーンが初登場する、シリーズ一作目です。
満員すし詰め状態のニューヨークの市電の中で、突如絶命したひとりの男。
死因は彼のポケットに入れられた、毒針がささったコルク球に指が触れたことだった。
同乗していた関係者たちに動機の見当たる者たちはいるものの、犯人確定の手段は見つからない。
続いて第二、第三の殺人が行われ・・・。
四部作の中では「Yの悲劇」が取り分け有名だという印象ですが、この小説のメインの謎(真相)のひとつも、子供の頃よく読んでいた、恐るべきネタバレ本の数々(当時は有名ミステリのメイントリックを集めてまとめて紹介(!)するという、今なら許されないようなネタバレ本があって、推理パズル形式になっていたそんな本を、何冊か読んだ記憶があります)に必ずと言っていいほど載っていて、推理小説好きなら、本作を読んでいなくても、キモの一部分そしてこの作品の名前は、基本知識のように知っていたんじゃないかと思います。
読んだのがずいぶん昔だったので、およその筋とレーンのキャラクターは覚えていたものの、やはり再読すると印象新たです。レーンってあんな家に住んでたんだなー。
トリックや謎解きをひたすら楽しんでいた当時よりずいぶん大人になった今にして読めば、ミステリ・・・推理小説というものの緻密さに改めて感心します。
クリスティの時は、主にポワロの、「解決に至る推理」の緻密さ、丁寧さに感心したのですが、この作品の場合は、もちろんそのあたりにもぬかりはないのですがそれ以上に、「探偵が口を閉ざす理由」までがきちんと作り込まれていて、ああさすが、と思いました。
種あかしをされてみれば確かにそう書いてあったよ!というところがちらほら。人間の頭が重要なところだけを拾ってつい細部を読み飛ばしてしまうのをお見通しなのか・・・推理小説を読むときはラクしようとしちゃだめってことか(笑)。
どこかで読んだのですが、推理小説は、トリックそのもの(も、もちろんですけど)よりもむしろ、「謎を解く過程」「解決に至る道すじ」がどこまで書き込まれているかを楽しむものだ、というのも本当だな。そのあたりが作家の手腕の見せ所なのでしょう。
余談ですが、最初に読んだ本作のラストの一文が、以来ずっと頭から離れず、今でもふと思い出すことがあるのです。今回読んだのは角川文庫の平成21年版、「20年ぶりの決定版新訳」だそうで、最後の一文は違う言葉になっていました。それに異を唱える気持ちは全くないのですが、あの時の一文を、やはり思い出して、胸につぶやいてしまいました。
「・・・ひとつのX。」
そんな言葉だったと思います。(と書きつつ、全く違って覚えているかも、と今不安。)
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「Yの悲劇」(The Tragedy of Y)
四部作の中では最も有名な一作ではないかと思います。(「X」もかなり有名作だと思いますが)。翻案されてテレビドラマになったものも見たことがあります。
なにかと悪評の高い、曲者揃いのハッター家の一員、化学者であるヨークの腐乱死体が発見されます。その後ハッターの屋敷で起きた毒殺騒ぎ。そしてついに殺人が・・・。混乱した手掛かり、莫大な財産を巡る遺言状、引き続く事件。その犯人と犯行の経緯とは。
この作品の内容はかなり細かいところまで覚えていましたが、やはり面白く読めました。
とはいえメインの犯罪に関する部分以外では忘れてしまっている要素も多く、特に犯罪の「遠因」となる事柄についてはそうだったっけ、という感じでした(笑)。
例によって探偵レーン氏は、真実を知るゆえに「苦悩」し、「煮え切らな」くなるところもありますが、
最後の決着の付け方は、思い切ったなあ、という印象です。
レーン氏のこの態度には、この「四部作」を通して読んだあとに、一種の意味づけを感じたりもします。
トリックや犯人、などについては、あまりにしっかり覚えているので、今回読んで新たに感想を抱くことはできなかったのですが、見事なことに変わりはないし、犯人の設定の仕方については「X」に通じるものも少しあると感じました。
ずっと昔にどこかで、レーンのとある行動について、それは成り立たないのでは・・・と書いてあった一文を今も思い出すのですが、うん・・・そうかな・・・でも見ないふり(笑)。
この作品といえばやはり思い起こされてしまうのが1928年発表の他作者による某推理小説ですが、どちらがどうとかこれらの関係とか(まあ要するに影響とかパクリとか)、その辺についてはわたしの興味の対象外であります♪
どちらも既読ですが面白く読みました。
作品として、先の「X」とこの「Y」は、さすが名作と言われ残り続けるだけの存在感が確かにあると思います。
なんだかやたらぼかした書き方になってしまっていますが、ネタバレを避けるためですので、ご容赦くださいませ。
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「Zの悲劇」(The Tragedy of Z)
先の「X」「Y」と多分同時期に読んでいるはずですが、ペイシェンス(シリーズの一員サム警視の、娘)が初登場すること以外、見事に何一つ覚えていませんでした。よって今回の再読は終始かなり新鮮でした(笑)。
あと、作品のほぼ最終の一節だけはなんとなく覚えていましたが、読み直したところ、微妙に内容が違っていたな(笑)。
悪者と評される州上院議員が書斎で刺殺されているのが発見されます。
とある事件で、上院議員の知人の自宅に娘を伴い滞在していたサム(警察を引退して私立探偵になっている)は、乞われてこの殺人事件の操作に乗り出します。
しかし捜査はサムたちの違和感をよそに別方向へ進み、出所したばかりの元受刑者が犯人として逮捕されます。
彼の無実を推理したペイシェンスたちは、レーンに助けを求めますが、事態はさらに複雑になり、ついに元受刑者に死刑執行の危機が訪れます。レーンたちは彼を救うことができるのか・・・。
もちろんやはり読み応えのある一作で、サスペンス要素も味わえ、特に山場の部分は圧巻でした。が、好みとしてはやっぱり「X」や「Y」のほうかなーという感想です。
間違いなく緻密ではありますが推理部分に、ちょっとボリュームが足りないような気がしたのと、大切な決め手となるある要素の登場の仕方が、それでいいのかなーと少し思われたこと、あと犯人の背景が少し弱い?と感じたあたりでそう思うのでしょう。
さらに、ペイシェンスを巡るエピソードや描写のところどころが、単にわたしの趣味に合わなかっただけですが(逆にその部分をむしろ本作の魅力と思う方も多いでしょうし)めんどくさかった(笑)かな。
女探偵は好きですし、ペイシェンスの頭の切れるところは爽快ですが、なんだか余計なものが多かった気がして。
ちなみに本作はペイシェンスの一人称に終始します。クイーンの作品でこのようなかたちのものは大変珍しいということです。
とはいえペイシェンスのキャラクター自体は嫌いではないですし、彼女の登場は、この四部作にとって必要不可欠だろうな、ということは、四作全部読んでみてよく理解できるところです。
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「レーン最後の事件」 (Drury Lane’s Last Case)
「謎の髭の男」がサムの探偵事務所を訪れ、奇妙な依頼を残します。続いて別の依頼者から持ち込まれた、博物館警備員の失踪事件。
捜査のため博物館の後援者であるレーンの力を借りたサムたちですが、やがて事件が奇妙な様相を呈するにつれて、本格的にレーンに協力を要請します。
稀覯本を巡るあまりにも不可思議な出来事、見え隠れする「青い帽子の男」、「謎の髭の男」が残した紙片、行方のわからない警備員、そしてついに殺人が・・・。
本作も「X」「Y」同様ネタバレ本では有名な作品で、よって「予備知識あり」の状態で読みましたし、最後の解決部分についてはかなりはっきり覚えていました。
込み入った部類に入る話だと思いますし、緻密な推理は相変わらずです。話の展開も複雑です。
「最も大切な部分」の推理は、やはりさすが。
そして読後には胸に迫るものがあります。この作品の終わり方、最終部分の描写は名作だと思います。
今回は三人称で書かれていましたが、それでも、多少、読みながらめんどくさい部分(スパイスにしてもちょっと多すぎないかなーと思われました・笑)がありました。
とはいえ本作においてはそれも「重要な」要素だったかな、と理解できなくもないです。効果と呼ぶべきかな?
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クイーン作品は子どもの頃に読み始め、かなり続けて読み漁りました。
数学的な推理法や、「読者への挑戦状」を含む、フェアな「推理小説」っぷりが気に入っていたんだと思います。
これは完全に個人的な好みなのですが、やはりクイーンにおいても短編が気に入って、数冊ある中短編集を何度も読んだ記憶があります(レビューでは実は不評がちです・笑)。
次のご紹介は同じくクイーン、今度はエラリー・クイーン探偵が活躍する「国名シリーズ」です。
今から再読だー♪
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