「アリバイ崩し承ります」・安楽椅子探偵ミステリ

2020年12月6日

著者の大山誠一郎さんの本を読むのは初めてになります。どんな方かはわからなかったのですが、新刊案内を見てなんとなく引かれ、読んでみました。

同一シリーズのアリバイ崩し短編集です。一篇一篇は短めでさらっと読めます。
「正統派」と呼びたくなるような、よく練られたトリック重視の話が七編。読み口はややライトでシンプル、やわらかい印象を受けました。

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「兎のような」時計店店主のアリバイ崩し

新人刑事の「ぼく」は、転居先の商店街にあるたまたま訪れた時計店の店内に、「アリバイ崩し承ります」「アリバイ探し承ります」の貼り紙を見かけます。
時計店の店主は美谷時乃という若い女性。
「小柄で色が白くて」兎のような雰囲気があり、物柔らかで丁寧な話し方をするひとです。

「時計屋こそがアリバイの問題をもっともよく扱える人間」と言う先代店主の祖父から、
時計を扱う技術と共に「アリバイ崩し」の訓練を施されて育ち、
先代が亡くなった今、この時計店を譲り受けているという彼女に、
ある殺人事件のアリバイの件で悩んでいた「ぼく」は思わず相談をしてしまいます。
話を聞いた時乃はまさにたちどころに「アリバイの謎」を解き明かし、以来「ぼく」は難事件にぶつかる度に、時乃の店を訪ねることになるのです。

被害者の胃の内容物、郵便ポストに投函された拳銃、雪に残された足跡、事故死の間際に殺人を告白した小説家・・・などに関わる7つの「謎」が、時乃によって次々と解明されていきます。

 
 
「正統派」謎解き重視の短編集
 
  • あくまで謎解きメインの短編集。鮮やかな謎と解決。
  • (よく考えたら)安楽椅子探偵もの。つまり、探偵は事件の話を聞くだけで(たちどころに)真相を言い当てる種類のもの。要するに推理重視。
  • 余分すぎる雰囲気や要素なし。ある意味シンプル。

と、あとから気付いたのですが、個人的には、一番好きと言えるジャンルの本でした。

例えばクリスティの「火曜クラブ」とか、、ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」などのような作品。安楽椅子探偵ものではないかもですが、クイーンの「エラリー・クイーンの冒険」もそんな読み味だったと記憶しています。

どれも細かいところまでよく出来た話で、作者さんの力量を感じました。
発想もなかなかユニークで、「推理小説」らしい(嬉しい)
たまに見破れると嬉しかったりもして(笑)。

だと言うのに、最初の一篇を読み終えた時、「えっ、これだけ?」と思わず思ってしまったのはなぜだろう。二、三篇読んだあたりで慣れてきて、本来の持ち味を楽しめるようになり、作者さんの手腕に感心することが出来るようになったのですが。

最近こんな感じのシンプルな作品を読めていなかったからかな、ちょっと装飾過多な話が多いものね、そっちに慣れてたのかも、とも思いました。確かにその傾向がなくはないでしょう。

それと同時に、文章かなーとも少し思いました。
シンプルすぎというか、平易すぎというか、そこがちょっと物足りなかったのかな?

「推理」以外のものは削ぎ落とせる限り削ぎ落としてもらえるのが最も嬉しいと思う読者ではあるのですが、それはそれとして、それでも、なんとなく読み物として成立する部分がやっぱりほしいものなのかなあと、考えました。微妙なものですね。

キャラクター自体は愛すべきものだし、探偵も好感がもてるタイプ。
どこかのレビューにも書かれていましたが、表紙の絵も可愛らしくて、本としての佇まいはけっこう好みです。

 
 
安楽椅子探偵といえば
 
 

とはいえ、大好きな「謎解き」を楽しませてくださる作家さんのようなので、今後作品を拝読させていただこうと思っています。本格ミステリ大賞も受賞なさっているんですね。

「アルファベット・パズラーズ」

「密室蒐集家」

「赤い博物館」

などのご著書があるとか。

安楽椅子探偵ものといえば思わず「隅の老人」と思ってしまいますが、あの探偵は、時々言われるように、結構捜査なさるんですよね・・・(笑)。

安楽椅子探偵もので大好きなのは、先程も挙げた、

ミス・マープルものの「火曜クラブ」

ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」

最近読んでいるのは鮎川哲也の「三番館シリーズ」で、会員制バー「三番館」のバーテン氏が探偵役。

創元推理文庫から六冊出版されているものを、もうすぐ読み終えます。

そしてその次に読みたい安楽椅子探偵ものが都筑道夫さんの「退職刑事」シリーズです。

そうそう、少し前に読んだ太田忠司さんの「奇談蒐集家」もお洒落な読後感でした。

「実際に身に起こった奇談」を求める広告に応じて語られる「不思議な」話。しかしそのいずれもが、後ろに合理的な説明を含んだ「奇談でもなんでもない」話であることを、美貌の人物が次々に解き明かす短編集です。

ちょっとビターだったり、幻想的なムードがあったり、なかなか雰囲気のある本でした。

「安楽椅子探偵」についてちょっと別ブログに書いた記事がありますので、若干内容が重なりますが、よろしければご覧くださいませ。

「三番館シリーズ」と「奇談蒐集家」について、少し詳しく書いています。

安楽椅子探偵もの二題・「奇談蒐集家」「太鼓叩きはなぜ笑う」(本とヴォル・ド・ニュイ1st)

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