「しゃぼん玉」 乃南アサさんの“心理サスペンス”長編

2020年12月6日

 

 

この「しゃぼん玉」は映画化されていまして、実は最近その映画を(レンタルで)観たのです。
なかなか印象的な作品だったので、原作も読もう、という気になりました。
映画にナビゲートされる形で、また、筋立てをもう知っているかたちで読んだ本ですが、ぐいぐいと、面白く読み進める事ができました。やっぱりさすがだ。
もし映画より先にこの本を読んでいたら、どうだったかな、と考えてみるのも楽しいです。

 

舞台は宮崎県椎葉村

 

 

伊豆見翔人は二十三歳。ひったくりや強盗を繰り返していましたが、ある時、金を取ろうとした相手を、思ったよりも深く刺してしまいます。

殺したかもしれない・・・。そう思った翔人は遠くへ遠くへと逃げていきますが、ある時、ヒッチハイクをしたトラックの運転手に、真夜中の山中に置き去りにされてしまいます。夜が明けて目にしたそこは、およそ知りもしない土地、考えもつかない山深い場所。

ともかくどこかへ出ようと歩き出した翔人は、山道で、バイクで転倒し怪我をした老婆に出会います。バイクを奪って逃げようと考えつつも、いつの間にか老婆を助けて自宅まで送り届けることになる翔人。そのままバタバタと老婆に言われるままに動いているうちに、近所の人が食事を持ってきたりと翔人の世話を焼き始めます。どうやら老婆の孫息子と思われているらしい。

肝心の老婆も、周囲が翔人を孫だと思っていることを特には否定をせぬまま、彼にあたたかい食事を出し、風呂に入らせ、着替えを与えて、何も言わずにうちに居るがままにさせておきます。今日は出よう明日は出ようと思いながら、何とはなしに立ち去り得ぬ翔人でしたが、そのうちに・・・。

 

「よくある話」と思いがちですが

 

 

犯罪を犯すなどした荒んだ心の人間が、田舎のお年寄りや町、村の人たちに触れるうちに変わっていく。

「よくある話」と思いがちですし、現に、映画の紹介文を読んだ時にも、ちょっとそう思っていた部分がありました。

しかし、まずこの小説について言えば、「よくある話ね」では全く片付けられません。それがどうしてなのかな、と考えてみましたが、やはり筆力なんだろうなあ。

こういう話は、きっと書くのがとても難しいのでしょう。失敗しやすいというか、内容が薄っぺらいものになりがちで、うまく表現できなかった作品(小説に限らず)や安易に作られた作品を目にすることがたびたびあるために、「よくある話」と思われがちなのだと思います。

けれどこの小説は「面白い」一作となっています。
話も滞りなく自然に流れて(うまいなあと思います)、読者はいつの間にか最後のページにまで連れて行かれます。登場人物の設定も描写も生き生きと魅力的ですし、舞台もとても雰囲気があります(このあたり、先に映像で観ていたものに、わたしは影響されていると思いますが)。

何より、時折詳しく書かれる翔人の心理描写が、この作品の厚みを支えていると感じました。だから、文庫本の紹介文に「心理サスペンス」と書いてあったんでしょう。
実は自分は、「心理サスペンス?」と思いながら読んでいましたが、考えてみれば確かにそういう部分がありますし、さらに、結末を知らずに読んでいたなら、翔人の心理を追いながら、もっとハラハラするだろうな、とも思いました。

特にクライマックス(だと思う)での描写は迫力です。ここはすごい

 

映像的に美しかった、だけではなく

 

 

映画の方の感想はいろいろとあるのですが、一番印象に残っているのは、物語のはじめ、翔人が、置き去りにされた山中で目を覚ますシーンです。

最初に観た時に、びっくりと同時に、かなり心が動きました。監督さんはこのシーンを撮りたかったのかもしれない。映画館で観たらどんなふうだっただろうか。機会があったら是非見てみたいなあ。

それよりもっと前の部分の描写も映像として凝ったものだと思いました。

キャストの演技はもちろんとてもすてきでした。市原悦子さんも林遣都さん(この方、ほんっっとうに上手だとかねがね思っています)も、とてもよかった。見ながら、おばあちゃんも翔人もこんなにきれいで品がある感じじゃないだろうなあと感じていましたし(話し方も!)、原作を読んでその感は強くなったのですが、それが映画作品を損なうことにはなっていません。あのキャストだったからこそ、もう一度見たい!と今思っているほどの作品になっているのだと思います。綿引勝彦さんのシゲ爺よかったわー。かっこよかったわー。相島一之さん、スゴい。凄いとしか言えない。

映画のセリフはほぼ原作どおりでした。ここまで原作どおりなんだなあ、と妙な感心。当たり前なのでしょうか(笑)?

映画のほうでは、小説ではキモになっているのではと思われる部分をそれほど出していなかったり、そんなそこここに、監督さんのこの小説の解釈や表現を見ることも出来て面白いです。

風景をはじめ、絵として美しい映像作品でした。
そして、映画でのラストの描き方。個人的にとても好きでした。

小説も映画も、いいものに出会ったな、と思っています。

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