「だめだこりゃ」 いかりや長介さんの自伝を読んだ

2020年12月6日

 

いかり長介さんの自伝を読んだことがある、と人に聞いたので、自分でも読んでみることにしました。
単行本から文庫本まで出ていますが、今は絶版なのかなー。中古でのみ手に入りました。
買ったのは単行本の方です。表紙の写真がかなりかっこいいです。

そして、いい本でした。
内容そのものもよかったのですが、全体にちょっとストイックというか削ぎ落としたなにかがあって、ひとりの人間、のような本。置いているとそこに「そういう」人がいるような佇まい。珍しい感覚です。独特の空気感もまとっているような気がする。

一方で読みやすく、するすると、楽しく読める本でもありました。

 

若き頃から「踊る大捜査線」まで

 

 

この本に書かれているのは主に、バンドを始める若い頃から、「踊る大捜査線」の映画で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を獲得するあたりまでのことです。

「もてたくて」職場仲間とバンドを始めた話。
米軍相手のバンド活動の中で、コメディ要素を取り入れていった話。
ドリフターズが、みんなによく知られているメンバーで活動するようになったいきさつと、とあの「全員集合!」に至るまでの話。
「全員集合!」が終了し、俳優として活動するようになった頃の話・・・。

などがごくごくシンプルな文体で書き連ねられています。

確かに順を追って書いてあるのですが、それが「年代史」っぽくなく、だらだらとせずに、「短いエピソードのつながり」として書かれています。
なのでとても読みやすい。

また、確かに「全員集合!」などの舞台裏についても若干書かれているのですが、それがいわゆる「裏話」というものでも、芸能人の「素顔」でも全くなく、あくまで「作る側が語る舞台裏の話」になっているのが気持ちよいです。
もちろんメンバーの「素顔」には触れているのですが、それも、生き生きとはしていますが「生々しい」感じではありません。

全編にわたって、ごくあっさりと、抑制のきいた書き方がされています。

 

お父さまと注さんへ そして作り手として

 

 

この本の最初の一章は、ドリフターズのメンバーだった荒井注さんが亡くなったこと、について書かれています。
荒井さんを、そして共にバンド活動をなさっていたジミー時田さんを失ったことが、この本を著すことになった大きなきっかけであると、「あとがき」にも触れていらっしゃいます。

そしてその次の章から登場するお父さま。
この本には、お父さまへの強い思いがずっと貫かれているようです。

父、仲間。本当に大切だった人たちへの気持ち、「大切だった」ということそのものが、読めばそのまま受け取れるように感じました。

いいなあ。

繰り返しになりますが、この本は全体として「シンプル」な印象です。
一章一章も短いし、文章も「箇条書き」に近いものがあります。
そのためとても読みやすい。また、そのため素直に共感することができるようです。

あとがきにも「予断が入らぬよう主観が勝ち過ぎぬよう控えめに」書いた、と記されています。まさにその通りの本になっています。そこが、とてもすっきりした読み心地になっているようです。

また、この本においていかりやさんは一貫して「作り手」として登場しています。バンドや番組やコントなどを、「作り」続けてきた人間として。そのため、いろんな箇所に「作り手として考えていたこと、やってこと」が書かれており、ものを作る人間(自分も芝居を作るので)には参考や刺激になる部分が大いにありました。きっと折に触れて読むと思います。

誠実で「不器用」で潔い。そんな人間のような一冊。
だったと感じています。

 

中古でも読みたい本

 

 

この本は通販で、中古で手に入れたものです。
届いた時にはとても状態のいい本だと思いましたし、今でも清潔感があり、申し分のない商品だったと思っています。

それでも読んでいるうちに時々「中古らしさ」が見つかる時があって、初めて見つけた時に、妙ですが「あ、わたし中古の本読んでるんだ」と思いました。普段そんなことは思わないのですが。

そしてこれは「中古でも読みたい本(中古“で”読みたい本、というのもあるでしょうが、それは全く別の理由でしょうねえ)」なんだ、と感じたのです。そういうものが、世の中には確かにあるな、と。この感覚は、うまく書けないのですが、はじめてでした。何度もこんなことはやっているのに。
絶版で、書店にももうなかなか並んでなくて、古書店に行ってもあるかどうかはわからない本。それをわたしは読んでいる。読みたいと思えて、読めている。

こういうことを大切にしたいな、と思いました。
こういうことのために、わたしに出来ることをやっていきたい。

改めてそうも思うことができた読書でした。

 

いかりや長介さんの息子さんによる「いかりや長介という生き方」という本があるようで、併せて読もうと思っています。この本も、いわゆるゴシップ本の域にはない本のように感じています。どうかな?
読んでみるのが楽しみです。

 

※追記(2018.11.25)

先述の「いかりや長介という生き方」を読んでみました。

感想は・・・うーん、いかりやさんの、特にプライベート面における、詳細な記録を読んだ、という感じでしょうか。いかりやさんの素顔、などに興味のある方には貴重かも。闘病のあたりは壮絶すぎてちゃんと読めなかった・・・。

 

濃密に、いくつもの傷あとをその身につけながら「生き通した」父親の半生を、ただ宙に溶かしてしまいたくはない。記録としてかたちにして残したい、という気持ちが、よく分かりました。

確かにこれは、そうだろうな。

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