SF「天のろくろ」を読んだ・意外な(?)読みやすさ

2020年12月6日

 

機会があって、SF「天のろくろ(The Lathe of Heaven 1971 ル・グイン作)」を読みました。

SFとはあまりご縁がないまま来ていました。そして、特に、以前のSFってちょっと読みにくいかな〜というイメージが先行していましたが・・・本作品は、とても読みやすく、ぐいぐい進めるし、面白かったのです。これなら他の作品もいけそうだ。

と思わせてくれたこの本について、少し書いてみます。

 

蝶を見た夢か 蝶が見た夢か

 

 

“近未来”。ジョージ・オア(主人公)は、不法に薬物を使用したかどで精神医のもとに治療に送られることになります。オアが薬物を使用したのは「夢を見ないため」。

担当医ヘイバーに、自分が時折みる「効力のある夢」は現実を変えてしまうとオアは主張します。そしてその場でヘイバーはそれを実際に体験するのです。

オアの夢の力を知ったヘイバーは、それを使って「世界を改善」しようとします。人口の極端な過剰によって苦しむ人類の生活をよりよくしたい。そんな暗示をかけられてオアは夢を見ます。その結果、人口超過が解決した世界が現れますが、それは「汚染癌」によって60億人が死滅したことによる解決でした。オアの夢は60億人の人間を「消して」しまったのです。さらに・・・。

動機はともあれ、オアの「夢」の力を利用しようとするヘイバー。オアが助けを求める女性弁護士ルラッシュ。
オアの「夢」のために、思わぬ方向に幾度も変容する世界。
この「悪夢」を終わらせるのは・・・。

 

そうきましたか。と何度か思った。

 

 

設定と筋立てが面白いため、SFに不慣れな自分でもぐいぐい読み進められました。話の進行がもたつかず、描写が長すぎないところも読みやすさの一因だと思います。延々とした描写がイメージをかきたてて魅力になっている作品もあるのでしょうが(なんとなく映画「ソラリス」を思い出すなあ。好きなんだよなあ。)、テンポがいいとやっぱりらくに読めますね。

ハイバーが、世界を変える夢をオアに見せようとして眠らせる前にたびたび暗示をかけますが、相手は「夢」であり与えるものはあくまで暗示なので、その結果「社会問題」が思わぬ(とんでもない)方向で「解決」し続けます。このくだりは、「やられた(笑)」でした。

途中から、「いかにもSF」的展開にもなり、おお、やっぱりSFだった、とも思いました。近未来を舞台にしてひとつの設定を作り、そこからお話を展開していく、ある意味での「ロジカル」な小説かと考え始めていたところ、“あれ”が来る。あ、そっちにも行くのか、ちゃんと。しかしこの“あれ”には、もしかして“東洋”のイメージもかぶせられてるかなあ。

「弱々しい」人間として登場するオアの書き方が変化していくのも面白いです。

ちなみにわたしが読んだのはサンリオ文庫の、竹宮恵子さんが表紙絵を描いてらっしゃる版なのですが、表紙のオアがとてもイケメン。しばらく誰の顔かわからなかった(笑)。これはかっこよすぎではないだろうか(笑)。

 

↑こんな感じ。実物のほうがキレイ。

 

天の「ろくろ」

 

 

訳者さんによって紹介されていましたし小説本文内にも引用がありますが、タイトルの「天のろくろ」は「老子」に使われている言葉です。しかし本当は、老子では「天鈞」。訳者あとがきによれば、「天のろくろ」ではなく、「すべてがひとしいという自然の道」というほどの意味で使われている言葉だとか。しかし「鈞」という言葉に「ひとしい」という意味とともに「ろくろ」という意味があるそうで、そこからきた誤解だろうということです。
これは作者の誤解ではなく、作者が読んだ「老子」の英訳文の誤解。英訳文の方で、Lathe of Heaven となっていたのだそうです。こういうことあるでしょうねー。

他のSFで読みかけている本があるのですが、それを読みながら感じたのが、SFジャンルの作品って、「空想科学」なばかりでなく、というかだからこそ、社会的倫理的哲学的課題を扱うものが多いんだなってことでした(あまり読んでいないので何ですが)。
社会の根本の設定を自由に作れるジャンルだからこそそうなるんだろうな、と思いますし、他のジャンルではなかなかできないことでしょう。
けっこう根本的なところに切り込む作品がある。これはすごい。興味惹かれます。

SFにはちょっと近寄りがたい独特のイメージを抱いていたのですが、今後読む冊数を増やしていけると思います。気になっていたけど読んでいないタイトルもいくつかありますしね。取り敢えずあの有名作、「華氏451度」は手元にあるな・・・。

 

高校数学をやり直したい。とずっと思っていて、そろそろ実行しようと書店で本を探しました。見やすく、わかりやすく、肌が合いそうな一冊を見つけたので購入したのですが、不思議なことがひとつ。どうして表紙がこんな感じなんだろう・・・。

 

 

学習参考書ってこんな表紙が多かったのはそうなんですが、やり直すってことは大人向けですよね?若めのおとなむけなのかな?それとも・・。何を意図した表紙なのか気になってます(笑)。

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