三島由紀夫「金閣寺」

2020年12月6日

 

自分で書いたりもする割には、案外小説というものを読んできていない(推理小説を除く・笑)自覚があります。特に日本近代文学にはずっと興味はあり、断片的な知識がないわけではないのですが、読めてきたかというとこれもそうでもない。ここらでいろいろ読もうと手を出し始めています。

そうして今年のはじめに読んだのが「金閣寺」。これは二年前のお正月に一度お蔵入りにした一冊でした。今回ちゃんと読み終えることができた、ので、少しこの本について書いてみます。

 

なぜ「金閣寺」なのかと言うと

 

 

「金閣は燃やさねばならない」

 

このフレーズは、多分中学生か、もしくはもっと前から?自分に取り付いて離れないものでした。教科書の副読本に日本文学案内のようなものがあって、いろんな作品の簡単な紹介と作品中のごく一文などが集められていました。

「金閣は燃やさねばならない」はその本に、多分この一文くらいのみが載っていたように思います。その内容やイメージなどとは一切関係なく、ただその言葉だけが記憶に染み付き、その後幾度となく何の脈絡もなくふわふわ出て来るようになりました。

同じように印象が刻み込まれてしまって(でも内容とは関係なく)何度も思い出す文章はいくつかありまして、たとえば太宰治の「駈け込み訴え」の一文もそうです。何の縁があるんでしょうねー。

そんな風に何度も何度もことばが頭に浮いてくるとやはり気になるもので、「金閣寺」をちゃんと読んでみたいとずっと思っていました。そしてとうとう読み始めたのが二年前の年末です。ずっと気にしていた割にかなりかなり遅れ馳せですが(笑)。

二年前に読み始めて、でもどうして読み通せなかったのかと言うと、ちょうどその頃ちょっとした悩みを抱えていまして。この本は、弱っている心には少々負担の重いところがあり、読み進めるのが苦しくなってきたので一旦棚上げにしたのですね。それを人に言うと「いい経験してるねえ」と言われましたが・・・(笑)。

 

で、読んでみてどうだったのかと言うと

 

 

三島由紀夫の小説をちゃんと読むのは初めてじゃないかと思います。戯曲は「サド侯爵夫人」「近代能楽集」を読んでいました。イメージとしては外国、特にフランスで人気のある作家、という感じを持っています。ほんとうだろうか。

ずいぶん頭のいい人が書いている文章だ、と感じました。いわゆる「難解」なものです。最初は「(意味を)伝えようなんて思っていない」文かな、と思いましたが、もしかするとそれは逆で、伝えようという意志が強いために、「難解な」文章になっているのかもしれないなあと思いました。
つまりありのまますべてを純粋に余すところなく伝えたいから、頭(心)に浮かんだ思考やイメージを「そのまま」書き綴ったのだろうか。「整理や変換、翻訳」など「わかりやすく伝える」ための手を施さない、「生のまま」の表現かなあ。

たとえばある種の絵画などでされている表現方法を文章でやっているということなのかもしれません。普段は見過ごされている(故意にあるいは無意識のうちに)、人間の、頭や心の中で起こっている思考や認識の流れ、感覚などを、鋭敏に意識、感じ、言葉として表出させる。その意味でとても「芸術的」な文章なのかもしれません。

でももしかしたらこの文章は、作家の「美学」が貫かれた、つまり作家が「美しい文章」を志して書いたものなのかもしれません。するとそこにはむしろ強く「作為」が働いているわけで、これは「造形」というかたちでの「芸術」に近くなりますねえ。

どちらにせよ三島は特に「芸術」色の強い作家というイメージを抱きました。だからフランスで人気があるのか。いやそもそもフランスで人気があるというのは確かなのか。すみません、確かめておきます。

 

次は「金閣炎上」を読む

 

 

この小説は、昭和25年に実際に起きた、金閣寺放火事件を題材にしたものです。同じ事件を扱った作品が、水上勉にも二作あり、「五番町夕霧楼」「金閣炎上」です。「五番町夕霧楼」って映画になっていなかったかな?と思いましたら、映画が二作、テレビドラマにもなったとウィキペディアに書いてありました。

「五番町夕霧楼」はこの事件をモチーフにした小説で、自分には苦手分野っぽいので読まないかもしれない(笑)。でも映画には何か感じられるように思いますので、こちらは観てみようかなあとしています。どうも「美しい」んじゃないかという予感がする。

「金閣炎上」はノンフィクションだと紹介されていたので、こちらは読む気になって手元にあります。。この事件にそれほど興味を惹かれた、というほどでは実はないのですが、折角ですので、つられて併せ読みしてみることにします。

 

余談です。
自分がなかなかこの本を買わなかった理由のひとつに、表紙がいまひとつピンと来なかったから・・・というものがありました。
新潮文庫の、炎が上がっている絵の表紙がなんとなくもうちょっと、に思えて、他にないかと探したのですが、他の出版社さんから出ているものが見つけられなかったんです。ないのかな?探し方が甘いのかな?

しかしよく見るとカバーに、この絵は速水御舟作「炎舞」の一部であると書いてありました。
調べてみると、おお、なんと素晴らしい作品!なんと魅力的な画家!
自分の不明をものすごく恥じたことでありました。

速水御舟さんについての面白いブログ記事を見つけましたのでリンクを貼っておきますね。

今年の速水御舟展は最強だからとにかく見て欲しい!早逝した天才日本画家を振り返る必見の回顧展!(山種美術館)

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