「戦場のコックたち」・“日常の謎”が語る戦場の日々
新聞にこの本の広告が載っていたのを見た時に、なんとなくピンと来てすぐに買い求めた一冊でした。
これが深緑野分さんとの出会いになりましたね〜。
想像していたのとはずいぶん違う一冊で、意外に思ったのを憶えています。
個人的に、今まで読んだことのないタイプの小説でした。
「戦場小説」
19歳のティムは半ば戦場に憧れて、家族の反対を押し切り、第二次世界大戦に兵士として身を投じます。
コック兵エドとの出会いと、筋金入りの「料理人」であるおばあちゃん(この人がカッコいい!)に育てられた記憶から、ティムは特技兵(コック)の仲間入りをすることにします。
そんな彼の戦場への“デビュー”はノルマンディー上陸作戦、落下傘部隊としてのものでした。
そうして始まったティム(キッド)とコック兵仲間たちの戦場記が本編です。
そしてそこで起きる「謎」を、主に、明晰な頭脳のエドが解いていく連作エピソードの形になっています。
仲間の兵士が予備のパラシュートを集めて回るのは何故なのか。
食糧の粉末卵が600箱も消えた謎。
オランダの民家で夫婦が謎の死を遂げた理由とは・・・などなど。
その謎を解くことによって、「戦争」「戦場」の現実が明らかになっていく、語られていくのです。
ミステリメインの謎解き物語、ではなかったのですが
実は、広告を見た時には、戦場を舞台にした連作ミステリ短編集だと思っていました。
けれど実はそうでもなく、ミステリというよりは戦場を描くことに重点が置かれています。
この作品を読んだあと、どこかで作家さんが、
ミステリは“ストーリーを展開するための要素”として扱っている、
みたいなことを書いていらして(すみませんうろ覚えだけど確かそんな)、なるほどな、と思いました。
そして、戦場が舞台だしそれなりに悲惨な状況も描かれるだろうとはいえ、
一種“明るい”、謎解きの爽快感が得られる“ミステリ”かともイメージしていましたが、
それも全く的外れでした(笑)。
全編を通せばなおのこと感じる、重厚感と迫力です。
ずっしりと来るような、それでいてどこか瑞々しい「戦場小説」です。
今回この記事のために本作を読み返してみたのですが、最初読んだ時より読み応えを感じました。
しっかりと構成されている作品だと思います。
そして「長編小説」であるとおり、最初から最後までを貫くひとつの“仕掛け”。
コック兵たちはじめ登場人物それぞれの辿る道も印象的。
こうして書いていて改めて、口幅ったいけれど、よく出来た小説だなあと思います。
「誤解」して読んでみてよかったな。
さて次に読むべきは
こうなると、深緑さんと言えば、と個人的に思っている
「ベルリンは晴れているか」
を読まなくっちゃなあ、と思います(現時点で未読)。
一方、「パリは燃えているか」も積ん読になっていますが、そろそろ手をつけたい。
関連かどうか微妙ですが、先日買った「その日の予定」も気になっています。
というのに深緑作品として「オーブランの少女」(こちらは短編集)を先に読んでしまいました。
この本の収録作品も、どれも同じく「謎解き」がストーリーを貫き引っ張っていきますが、
やはりメインはそのほかにあると思わせられるものばかりでした。
こういう作家さんなんですねえ。
「オーブランの少女」のほうが、若干ミステリ濃度は高かったかな、という印象ですが。
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