「空洞のなかみ」・カフェで抹茶を飲みながら

本、そのものの佇まいが、きれいな小さな本屋さんの雰囲気によく似ている。
やわらかい日の射す静かな書店がよく似合うようなこの一冊は、
俳優松重豊さんの著書です。
多分、初めての?

縁あって発行を知り、出版されてすぐ求めました。
読んでみての感想は、「うわ。書くの、うまっ。」。

失礼に当たる表現だと申し訳ないのですが、「達者な文章」という言葉が浮かんできました。
短編小説12編とエッセイ25編の掲載です。
著者の人柄を伺わせる、読みやすく雰囲気のある本でした。

「愚者譫言」と「演者戯言」

表紙カバーを外すと、本そのものの表表紙に「愚者譫言」、裏表紙に「演者戯言」と文字が入っています。
その意味もまだわからないまま本文へ。

「愚者譫言」は12の短編小説のパートのこと。
「演者戯言」はそれに続くエッセイのパートのことだとわかってきました。
「演者戯言」は雑誌に連載されていたエッセイをまとめた上改題修正されたものだそうです。
当連載は終了しているということでした。

「愚者譫言」は連作短編と言えるでしょう、プロローグとエピローグで括られています。
主人公である俳優さんのモノローグで貫かれていて、作品同士の関連性はそれほどありません。
それぞれの一話もそう長くなく、さっくりと読めます。実に読みやすい。

違和感もなく、ひっかかりもなく、するすると心地よく読める文章。リズム。
あ、うまい。
全ての話を通して感じるひとつの世界、ひとつのトーン。
それはこの本の外観から感じる雰囲気と、とてもよく似ていました。

オムニバスの映画みたいだ。

「演者戯言」も同様に読みやすく、面白い作品でした。
こちらは役者さんのリアルな現実や胸の内も垣間見つつ、ひとつの話としてきれいに「落ちて」いる短いエッセイ群です。
各文のタイトルの付け方が秀逸。
知性、技巧、そしてお人柄がにじみ出る文章です。

この本を読んでいた時間は、落ち着くカフェでひとりお茶を飲んでいるときのようでした。
紅茶でも珈琲でもいいんだけど、敢えて言うならカフェのおいしい抹茶かな・・・。

この書との縁はと言えば

以下蛇足ですが、この本を知った個人的なきっかけを少々書きます。
退社後に福岡市は西通りのジュンク堂福岡店に寄って、19時頃そこを出ました。
その夜ツイッターを見ていると、ジュンク堂さんのツイートに、松重豊さん来店中の記事が!多分比較的遅い時間に書かれたもの。
本書出版を記念して、本にサインをなさるためにいらしていたそうです。
サイン会というわけではなかったようで、それらのサイン本は翌日店頭に並ぶのだとか。

えっ???
わたし時間的にすれ違ったの?
それとも、もしかして同じ建物内に居てすれ違ったの?
周りはあまり見ないし大抵一目散に用事を済ませる習性がここに来て裏目に出たの?

どうしたわけかどんなに好きな方でも、テレビなどで拝見する方に実際会いたいとはほとんど思わないわたしですが、この時ばかりはめちゃくちゃ惜しい思いをしました。
ああ、お会いしたかった。

用意されたサイン本は翌朝あっという間に売り切れたそうで、手にすることは出来なかったのですが、それでも後日一冊買い求めました。
買ってみてよかった、読んでみて楽しかった。

収穫の一冊をいただいたご縁でありました。

松重さんも楽しんで書いてらした様子。
次の著書が出るのを、楽しみにお待ちすることにします。

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