安楽椅子探偵短編ものの白眉「九マイルは遠すぎる」/ハリイ・ケメルマン
クリスティを簡単にご紹介したあとはクイーンを・・・と行きたいのですがその前に、「火曜クラブ」に触れたことで思い出された、大好きな短編集について少しだけご案内したいと思います。
それが表題の「9マイルは遠すぎる(原題・The nine mile walk)」。
これも、その昔よく出版されていた、名作推理小説のネタバレ集(笑)では必ずと言っていいほど紹介されていた一冊・・・だったと思います。
9マイルは遠すぎる(The nine mile walk)
ニッキイ・ウェルト教授は、友人である「わたし(この短編集を通じて語り手となる郡検事候補者。二作目からは郡検事となっている)」との夕食時の議論のあとこう切り出します。
「たとえば十語ないし十二語からなるひとつの文章を作ってみたまえ」と彼はさきほどの話を続けた。 「そうしたら、きみがその文章を考えたときにはまったく思いもかけなかった一連の論理的な推論を引きだしてお目にかけよう」(以上ハヤカワ文庫版 本文より)
その提案に対して出された文章が
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない。ましてや雨の中となるとなおさらだ」
というもの。
そこから純粋な推論を重ねた結果引き出された結論は意外にも・・・。
この結末はあまりにも鮮やか。
ロジック好きからするとたまらないものがあります♪
8つの推理
この「九マイルは遠すぎる」を初めて読んだのは子供の頃でしたが、今でもたまに読み返しては感動しています(笑)。
特に表題作については、え、そこに行くの?という意外性にも胸を打たれたんだと思います。
当短編集はいずれもニッキイ・ウェルト教授もので、8つの短編が収められています。
どれも短めで、推理のみを基本とする安楽椅子探偵もの。
読みやすさ、楽しさから言っても大変おすすめできる一冊です。
機会があればぜひ。
比較的入手がらくな本だと思います。
地味というレビューがありましたが・・・
そうですね・・・(笑)。
今どきのミステリからすると、そうなるのかな。
でも、けっこうスカッとしますよ(人によるか)。
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ラビ・シリーズについて少し
アメリカの作家であるハリイ・ケメルマン(「九マイルは遠すぎる」の初出は1947年、エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン)には、もう一つ有名なシリーズがあり、それが「ラビ」シリーズです。
「ラビ」というのはユダヤ教の律法学士のこと。
ある町に在任する若きラビが探偵役をするこのシリーズは、ニッキイのシリーズとは異なり、長編作品です。
シリーズ第一作である「金曜日ラビは寝坊した」を読んでみました。
個人的には、「9マイル」ほどの“感動”はなかったな・・・というのが正直なところです。
「ラビ」という存在とそれを囲むアメリカのある町におけるユダヤ人社会、の描写が作中の多くを占め、いわゆる「謎解き」の部分が少なかったように思います。
と思っていたら巻末の都筑道夫さんの解説にラビシリーズは「ユダヤ社会の小説として喝采をはくした」「ユダヤ風俗小説の中に本格短編をはめこ」んだものであるといえる、と書いてあったので、ああやはりそうか、と思いました。「あとになるにしたがって、推理小説の部分がすくなくなる」(解説より)そうなので、個人的には、そんなに急いで読まなくてもいいかな・・・(失礼!)と思っていますが、‘ミステリ’から離れて考えれば、ちょっと興味を惹かれる‘面白い’小説なのかもしれません。
今のところは、いつか読むかも、という気持ちです。
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